2025/07/10 (木) ダムソン・イドリス。
■ ブラピーの「F1(エフワン)」を見た。「トップガン・マヴェリック」のチームだからテンポはいいかもしれないが、キャラはどこかに置き去りにされるだろうと、大して期待もせずに見たら、これが大きな大きな二重丸だった。
失われた尊厳を取り戻すシーズンド・プロのハーフ・シーズンの戦いに必要な要素を全てぶち込んだフォーミュラ映画であっても、そこに散りばめられる役者たちが魅力的だと、それは映画の王道で輝く。
■ ブラピーがハマり役なのはもちろん、弱体F1チームのオーナーであるハヴィエー・ヴァルデムとの友情が気持ちいい。レース映画というと添え物でしかないヒロインが、今回はレーシング・カーのテクニカル・ディレクターでレーサーと徹底的にやり合う立場にある。演ずるのが演技派ケリー・コンドンだからこれも完璧。
そして、主人公を爺さん呼ばわりする若くて生意気なパートナーの存在がなければ、オールド・ルーキーの魅力が生きて来ない。ここに配されたのが、シドニー・ポワティエ、デンゼル・ワシントンのデビュー当時を彷彿とさせるスーパースターが約束されたハンサムな黒人俳優ダムソン・イドリス。
私は彼の存在を全く知らなかった。
■ 業界では、ダムソンの魅力は2017年から話題になっていたらしい。ダムソンが主役を演ずる「スノーフォール」のシーズン1が始まった年だ。
1980年代のLAで麻薬ビジネスに関わる人々を描くこのシリーズは、ジョン・シングルトンなどが製作総指揮をして2023年まで6シーズン続いた。ディズニー➕で見ることができるので、早速、シーズン1を見始めた。
ダムソンはサウスセントラルのティーン・エイジャー、フランクリン・セイントを6年間演ずることで確実にスター街道を登っていったのだ。
麻薬ビジネスを扱ったミニシリーズではアンドレア・ライズボロー主演の「ゼロゼロゼロ」が大傑作だったが、これも、最高峰の一本だ。
■ ダムソンのエピソードは1983年以降のL A麻薬シーンの変遷とそこでの通過儀礼を描く展開になっている。ダムソンが大人になるための祭祀がクラックなのだ。ダムソンにからむ形で紹介される第二の流れは、レスラー、エル・オソ(熊)のイバラの道。スペインの俳優セルヒオ・ペリス・メンチェータが演じている。タフな体と純朴な瞳を持った実に魅力的な役者だ。
彼が参入するメキシコ系の麻薬ビジネスと接点を持つことになる第三の流れで地獄巡りをするのが、一見気弱そうなCIAのローカル局員テディ。演ずるカーター・ハドソンが天才的にナチュラルなサラリーマン型エージェントを熱演している。
この三人の立ち役に絡む女優陣も、ワルのメンツも、皆適材適所。
私は今、間違いなく「スノーフォール」沼でもがいている。
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