2024/03/09 (土)

3月の「オッペンハイマー」など。


川面に点々と白い斑点が浮かんでいる。それが飛び立つと水鳥のユリカモメだとわかる。きょうの様に暖かい日の午前中は彼らの漂う姿や舞う姿に見惚れてしまう。沼津に生まれ育って毎日狩野川を眺めていたせいだろう。隅田川の眺めのあるこの部屋はとても気に入っている。

こうやってブログや脚本を打つパソコンも、背景には隅田川があって、いつも視界を情緒豊かにしてくれる。ニューヨーク舞台の「ACT!」を書いていても、ローマのアレッサンドロ・ヴァリニャーノを書いていても、隅田川が目を休ませてくれる。


ワークショップの募集が始まった。募集要項に怯えたのか私に怯えたのか不況の影響なのか情報が行き渡ってないのか、今のところ、応募してきているのは経験値の高い俳優ばかりだ。したがって平均年齢も高い。

理想は、所属事務所もなく限りなくアマチュアに近い若い世代が20%くらいを占めてくれること。そうすると、経験値の高い連中との予測不能なアンサンブルの妙味が味わえる。応募締め切りまでまだ1ヶ月ある。この先どうなっていくか。


やっと「オッペンハイマー」を見ることができた。全米映画業界の様々なギルドがベストに選ぶのも当然の大傑作だ。映画史に燦然と輝くオーソン・ウェルズの「市民ケーン」の偉業に匹敵する作品と言ってもいいかも知れない。

「市民ケーン」には「ローズバッドの謎」があった。こちらにも、それに匹敵する謎が、早い段階で提示され、最後に、その謎解きに到達する。

とはいえ、基本は、核分裂のような火花が散る演技合戦だ。導入部は、音と光の強烈なぶつかり合いで、あっという間に科学者ロバート・オッペンハイマーの心の内奥(闇といってもいいかも知れない)に突入していく。キリアン・マーフィが文句なしにすごい。この演技がオスカーの主演男優賞に輝かなかったらハリウッドは死滅する。そこから、核分裂の連鎖反応のように名演が連鎖して現出する。


主要な時間軸はオッペンハイマーのキャリアを追う縦軸と、モノクロによる壮大な公聴会、狭い空間での聴聞セッションの二つの横軸。クリストファ・ノーランの「時かけ少年」ぶりは健在だ。しかも、スター軍団が要所を占めて、いずれもトップ・ノッチの仕事をしている。

私が圧倒されたのは主要脇役のエミリー・ブラント、ロバート・ダウニー・ジュニア、マット・デイモン、フローレンス・ピュー、デーヴィッド・クラムホルツ、ベニー・サフディ、ジョッシュ・ハートネットはもちろんのこと、キャメオのケイシー・アフレックとラミ・マレックの強烈なインパクト。


さらには、なぜかシングル・クレジットをもらい損ねたジェイソン・クラークの、聴聞会での存在感は特別だ。特に、ここでのジェイソンとエミリーの丁々発止のやりとりは作品での爆発的ハイライトの一つだ。

「ラスト・サムライ」での、私の悪役同胞だったトニー・ゴールドウィンも、この聴聞会の「判事」として、控えめだが、いぶし銀のニュアンスの芝居を残している。

原爆投下の被害状況は、映画では描かれない。その点に関して、私には怒りも不満もない。ただ日本の映画人として、落とされた側の凄惨で克明な死の記録と、生き残るための熾烈な戦いを、最先端の映像技術を駆使して描きたい。そういう気持ちに傾く極めて強烈なモーティベーションに、この映画はなった。

私の脚本には数多くの日本人と様々な国籍の被爆者が登場する。ことに、ロンサム・レディーの搭乗員には「オッペンハイマー」に出ているスターの一人か二人に出演してもらいたいと思う。

憎むべきトルーマンには「この人」に是非とも「続投」をお願いするつもりだ。

ノーランも、そういう日本の映画人の「奮起」を願って、オッペンハイマーの罪悪感は描いても、日本での被曝状況を描かなかったのではないか。

それは、正しい決断だったと、私はおおいに支持する。


2024/02/24 (土)

春のワークショップ。


4月に4年半ぶりのワークショップを開くことにした。(詳細は「つばさ基地」のホームページでどうぞ)

前回のテキストは8人の登場人物による「裁かれるエリア・カザン」だった。カザンの到着を待ちながら演劇史の汚点「赤狩り」と「カザンの決断」を演劇クラスの生徒たちが語り合う設定で、受講生たちに赤狩りの時代を学んでもらうことがメインのテーマでもあった。今回は、前回以上に具体的な状況設定にした。演劇史を一つの特別なアングルから学んでもらう。私自身がこの一年に学んだ演劇的な冒険や新発見を、若い世代とシェアしたい。

テキストは、2024年6月に出版される予定の、私の初めての書き下ろし小説「ACT !」のワンエピソードを脚色した。1997年夏ニューヨークの演劇学校で学ぶ生徒7人がソーホーにあるアートハウスで、教師オススメの一本の映画を見る。そのあとで近くのカフェに集合、その映画と演劇史の事件を語り合う・・・。そんな感じ。でも、そんなに簡単に展開するわけでもない。受講生は、感性の障害物レースを健全な心と体で乗り越えてもらう。

楽しもうぜ!


2024/02/24 (土)

春のワークショップ。


4月に4年半ぶりのワークショップを開くことにした。(詳細は「つばさ基地」のホームページでどうぞ)

前回のテキストは8人の登場人物による「裁かれるエリア・カザン」だった。カザンの到着を待ちながら演劇史の汚点「赤狩り」と「カザンの決断」を演劇クラスの生徒たちが語り合う設定で、受講生たちに赤狩りの時代を学んでもらうことがメインのテーマでもあった。今回は、前回以上に具体的な状況設定にした。演劇史を一つの特別なアングルから学んでもらう。私自身がこの一年に学んだ演劇的な冒険や新発見を、若い世代とシェアしたい。

テキストは、2024年6月に出版される予定の、私の初めての書き下ろし小説「ACT !」のワンエピソードを脚色した。1997年夏ニューヨークの演劇学校で学ぶ生徒7人がソーホーにあるアートハウスで、教師オススメの一本の映画を見る。そのあとで近くのカフェに集合、その映画と演劇史の事件を語り合う・・・。そんな感じ。でも、そんなに簡単に展開するわけでもない。受講生は、感性の障害物レースを健全な心と体で乗り越えてもらう。

楽しもうぜ!


 a-Nikki 1.02