2022/04/26 (火) ENCHANTED BY ANDREA RISEBOROUGHまたはアンドレアの神秘研究A
■ 私が漁るアンドレア出演作は、2008年の「マーガレット・サッチャー」を例外として、彼女が30代半ばに達した2014年以降が基本だ。年度順に並べるとこうなる。
1「サイレント・アイランド」(2014・DVD購入) 2「Hidden」(2015・DVD注文) 3「ノクターナル・アニマルズ」(2016・配信観賞:A) 4「羊飼いと屠殺者」(2016・配信観賞:A -) 5「National Treasure(4話TV)」(2016・DVD購入) 6「The Witness for Prosecution(2話TV)」(2016・DVD購入) 7「ブラック・ミラー(1話)」(2017・配信観賞:A -) 8「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(2017・DVD観賞:B -) 9「マンディ」(2018・配信観賞:C -) 10「ナンシー」(2018・DVD観賞:A) 11「Burden」(2018・DVD注文) 12「Waco」(2018・DVD及び配信捜索中) 13「ニューヨーク親切なロシア料理店」(2019・配信観賞:C +) 14「ZeroZeroZero」(2019・配信観賞&DVD購入:A +) 15「Possessor」(2020・DVD購入) 16「Luxor」(2020・DVD注文) 17「The Electrical Life of Louis Wain」(2020・DVD購入)
■ リストアップした作品のABC評価は作品の採点であって、アンドレアの魅力指数及び貢献度は考慮していない。例えば、3の「ノクターナル・アニマルズ」でのアンドレアはお遊びのキャメオで、冒頭1シーンで主役のエイミー・アダムスとのやりとりがあるだけ。彼女の評価はC。
この作品の傑出ポイントとなると、小説のエピソードに出演するマイケル・シャノンがダントツで、ワルのアーロン・テイラー・ジョンソンと虚実入り混じった復讐劇の主人公であるジェイク・ジレンホールがこれに続く。ヒロインであるエイミーの貢献度はかなり低い。彼女が唯一評価できるのはグロテスクなリパブリカン保守派リッチ・ビッチの母親を怪演するローラ・リニーとのシーンのみ。シャノンの肺がんTexan Lawmanには涙が出るほど痺れた。
脚本・監督のトム・フォードはアンディ・ウォーホルとも交流が深かったデザイナー。冒頭のグロテスクで奇抜な展示はかなりウォーホリック。故にナックルボール型フィルムノアールに仕上がっている。
「購入」とあって作品評価のないものはまだ見ていないということ。「注文」とあるのは、ブツがまだ手元に届いていないということ。
それでは、観賞作のアンドレアを順に検証してみよう。
■ 「羊飼いと屠殺者」。南アの死刑制度にまつわる人種対立、人権問題を巧みに組み込んだオリヴァー・シュミッツ監督の力作。死刑執行シーンの生々しさは半端ではない。主役は人権派弁護士のスティーヴ・クーガン。飄々とした個性が作品の暗黒を救う。アンドレアは敏腕な女検事。出番はそれほど多くない。南ア訛りのスピーチがマジでリアル。彼女の評価もA -。
「ブラック・ミラーの一編クロコダイル」。ジョン・ヒルコートは「ザ・ロード」でも「欲望のバージニア」でも、一流の企画を三流の凡作に貶めた監督だが、この近未来のブラックなミステリーではいい仕事をしている。アンドレアの絶望に至る心の旅路が素晴らしい。彼女の評価はA。
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」。ビリー・ジーン・キングを演ずるエマ・ストーンは頑張っているが、演出・脚本が凡庸。アンドレアはエマのレスビアン相手のヘアスタイリスト。特に演技の見せ場もなく評価は作品並みのB -。
■ 超絶駄作「マンディ」。異才気取りの二世監督パノス・コスマトスによるカルト復讐劇で、今や落ち目のニコラス・ケイジが主演で惨めに吠えまくっている。アンドレアはその最愛のヨメ。仕事量としては一日か二日の拘束だろう。評価はC。このお粗末な脚本を読んで、アンドレアがよく出演を了承したと思う。ギャラがよかったとも思えない。彼女はお金で転ぶような女優でもない。こういうチープ・スプラッターに出ることで、演技環境のロック・ボトムを体験したかったのだろうか。ニコラスもしくは監督に興味があるか、関係者にボーイフレンドがいたのだろうか、というミステリーだけが興味として残る。
「ナンシー」。この年、彼女はアメリカン・カルトを題材とした作品に立て続けに出ている。「マンディ」に続く「ナンシー」は誘拐犯の娘として育てられた(かもしれない)女性を彼女が演ずるサイコロジカル・スリラーだ。小品だが、キリリと引き締まっている。アンドレアも、「わたしは何者?」という葛藤を抱えて正常と異常の細い線上を綱渡りするヒロインを、ニュアンス巧みに演じている。演技者アンドレアの面目躍如ではあるが、女の魅力は封印してしまっている。彼女の評価はA。周囲を演技巧者がかためているので、演技の見せ場は多々ある。
導入部の、育ての親(アン・ダウド)との絡みは宝石の輝き。その後、ジョン・レグイザモ、スティーヴ・ブシェミ、J・スミス・キャメロンとのシーンも全て良い。脚本・監督のクリスティナ・チョイはこれからが期待される女性監督だ。問題は、「ナンシー」DVD日本版のパッケージ。監督の日本語表記の上に商品登録カードが貼ってあり、読めない。不愉快。
■ 「ナンシー」に続く「Burden(重荷)」はまだ手元に届いていないが、予告編を見る限り、アンドレアは米サウス・カロライナ訛りに挑んでいる。作品の骨子は、1996年のサウス・カロライナを舞台にKKKから抜けようとする白人カップルの戦い。アメリカン・カルトの流れが続くことになる。それと前後してアンドレアが出ているのは、ブランチ・ダヴィデアンの闘争と自滅を全6話4時間52分で描くミニシリーズ「Waco」だ。「ウェイコ」でのアンドレアはテイラー・キッチュ演ずる教祖デーヴィッド・コレシュの信徒として全6話に出演している。ということは、アメリカの闇に挑む肩慣らしとして「マンディ」を選んだ可能性もある。
「ウェイコ」は一時期Netflixで配信されていたのでマイ・リストに入れておいたが、見る前に契約切れで消えてしまった。DVDも出ていない。アマゾン・プライムでもヒットしない。現時点では鋭意捜索中ということになる。
「ニューヨーク親切なロシア料理店」。ロネ・シェルフィグはこんなにヘタな監督だったのか、とびっくりした作品。ゾーイ・カザンは才能ある女優ではあるが、顔の作りが大胆にマンガのピノキオ系だ。ゆえに大袈裟な感情表現は作品の足を引っ張る。その個性を、コーエン・ブラザースのように巧みに使う監督もいる。ロネは、ゾーイの魅力を引き出せなかった。その暴力夫は、演技学校の劣等生にしか見えない。芸達者ビル・ナイも、実につまらない役どころだし、天才俳優ケイレブ・ランドリー・ジョーンズも混乱しているように見える。タハール・ラヒムに感ずるのも「困惑」だ。
ロシア料理店を中心とする人間関係の連携もしくはラ・ロンドがギクシャクしている。雪の屋外で子供が一夜過ごしたかのような意味不明のエピソードも出て来る。見知らぬ人々の優しさが空回りしているだけ。アンドレアも、ルックスは、「ゼロゼロゼロ」と同時期の撮影ゆえスッキリはしているのに、言動が行き当たりばったりで退屈だ。彼女の評価は作品よりは少し甘いB。
ここまで書いて来て思い出した。アンドレアはCONTORTIONISTなのだという。体を自在に曲げたり捻ったりする曲芸師だ。首の後ろに足を回して引っ掛けるなんてこともできるらしい。そういうしなやかさをフルに使って、サッチャーの「形」を表現したのだろう。サッチャーを演じたアンドレアはA。
アンドレア・ライズボローを巡るマジカル・ミステリー・ツアーの出発点はAMAZONリミテッド・シリーズ「ゼロゼロゼロ」だった。ゆえに、この作品は気を入れて絶賛したい。当然、長くなる。次回に回そう。
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