2007/08/28 (火)

再びニュージーランドへ。

昨夜は「クライマーズ・ハイ」の打ち上げ&壮行会。体調は悪かったものの二次会まで参加。準備不足のまま突入してよくぞここまで漕ぎ着けたというのがメインスタッフの感慨だろう。

残りは山岳B班によるヘリ撮影の一日とニュージーランドでの撮影のみ。本日、ぼくを含むNZ組十数名はクライストチャーチに出発する。熱帯東京から気温11度の街へ。逆だったらつらい。9月上旬に帰国したときには残暑がやわらいでいることを祈るのみ。編集作業は9日に開始する予定だ。

NZでの撮影後の数日間がぼくにとっての夏休みとなる。とはいえ見知らぬ土地への旅はいつも、未来のプロジェクトのためのロケーション・スカウティングを兼ねている。映画を作る旅をして、それがまた次の映画につながる。そうこうしているうちに次の世代が育って来る。

原田組は「本物」の映画を作っている。映画作りを「本職」としている人間たちが技を繰り出し「本気」で取り組むから「本物」ができる。しかし、「本物」の受け手が育っているだろうか?

ネットのおかげで「映画ファン」のスタンダードがどんどん堕ちている。どんなにつまらない感想でもだれかに届く時代になってしまった。幼稚な否定的意見が数値となり記録され作品の「評価」として定着する事態も生まれている。こういう「悪貨」を駆逐することは作り手にはできない。「良貨」、「良識派」といった本物の映画ファンの使命だ。彼らが前へ出て大きな声でものを言うことを時代は要求している。すぐれたものに出会ったら本気で褒める。本気で拍手する。それは、映画作りのプロセスに比べたらそれほどむずかしいことではない。

夏の映画作りは「タフ誕生篇」以来と書いたが、実際には「狗神」以来だった。岐阜での暑い夏がきれいさっぱり記憶から抜け落ちていた。ということは「クラハイ」の夏のいやらしさも二年か三年後にはきれいさっぱり忘れてしまうかもしれない。

考えてみると、「タフ」のころと比べて「狗神」の時には夏の暑さに耐える訓練をしていた。大汗たらたらの夏ゴルフだ。今回も、撮影中に余暇を見つけて何回かラウンドした。こういうことで体が暑さに適応するようになったと言える。

それにしても、日本部分の最後の二日間は蒸しぶろの暑さだった。伊豆長岡、三島という我がホームグラウンドでの撮影だ。こっち方面での夏撮影はぼくには向いていない。夏ゴルフもいや。


2007/08/16 (木)

猛暑で変身。

山にも負けず猛暑にも負けず、実によく働く若いクルーたちである。予定どおりスケジュールを消化してプロジェクト18の撮影はラスト・ストレッチに入った。メインのキャストも大多数が出番を終え、残されたスピーキング・パーツは片手で数えることができる。

夏は苦手だ。撮影に使った最後の夏は1990年だったと記憶している。「タフ誕生篇」だ。以来、7、8月に撮影はもちこまないようにしている。今回は、そもそもが真夏の実話だから逃げることはできなかった。覚悟してクランクインして、前橋や高崎の意外な「涼しさ」に助けられた。ニュースでは東京の数値が低く報告されても、体感温度は前橋の方がはるかに低かった。8月の山岳撮影は、機材運搬をするスタッフにはきつかったと思うが、監督としては「タフ」の夏よりは楽だった。

しかし、この4、5日の猛暑には疲れた。疲れはたまっているが、体調は決して悪くない。だから、もう絶対に夏には撮影しないぞ、という気分にはならない。夏に撮るのは面倒くさいとは思うが、無理して避けることもない、などと考える。

ただし、つまらないことでヒートアップすることは多々ある。昨日はヘリの騒音にも負けない大声で怒鳴ってしまった。若い俳優の勘違いを修正するのに、そんなに吠えることもなかったのに、と後になって考える。歳のせいにはしたくはないが、歳なんだろう。人の勘違いばかり怒ってもいられない。自分の勘違いも多くなった。時々、信じられないような勘違いをしている自分に気付く。廻りに迷惑をかける場合もあれば、自分ひとりで処理できる場合もある。いずれにせよ、残りの撮影では、もう吠えることはやめよう。

本日は撮休。木場の109で「トランスフォーマー」を見た。マイケル・ベイの演出で「賢い」と思ったことは一度もないので、体半分引けていたのだが、予告編で見たシャイアの「名演」を確認したくて劇場まで足を運んだ。そして、驚嘆した。

シャイアだけでなく、ガールフレンドのミーガンがいい。ハン・ソロ的な役割のジョッシュもいい。両親のケヴィンとジュリーもいい。国防長官のジョン・ヴォイトもいい。ジョン・タートゥロが終盤の演技合戦に厚みを加えているのもいい。黒人俳優たちもすべてうまい。アクションの合間に描写されるキャラクターではなく、役者にフィットしたダイアローグがひとりひとり強固なキャラクターを造り上げているのだ。これは、「MI。」でもそうだったが、脚本のロベルト・オルシとアレックス・カーツマンの功績だ。エピソードの積み立てといい、キャラクターの生かし方、シャキシャキ感のある会話、すべて超一級。

それはシャイア登場シーンの、教室での担任とのやりとりからも明らかだ。ここでしか登場しない担任教師がチャーミングなのである。「伝染歌」の工藤と同程度にチャーミングだ。単発の端役でも目一杯洗練されたダイアローグが与えられている。

その前、ジョッショの分隊を中心としたオープニングのアクションでも、ジョッシュとお仲間の生き生きとした会話に驚いた。「パール・ハーバー」までのマイケル・ベイとは大違いなのだ。全編を通じてのユーモアのセンスは抜群で、この笑いゆえに未成熟な日本の映画ファンからは不評を買っているようだが、これこそ本物のSF冒険活劇なのである。おそらくはスピールバーグが脚本ディヴェロップでもかなり介入しているのだろう。

我が「ガンヘッド」でも使ったコンセプトやフォーミュラはここでも活用されていて、懐かしさを感じたりもしたが、ロボット・アクションの手数の多さは、80年代とは隔世の感がある。「トランスフォーマー」はマイケル・ベイの代表作であるばかりではなく、歴史に残る冒険活劇になった。

特に好きなエピソードは、シャイアが家でひいおじいちゃんの眼鏡を探すくだり。抱腹絶倒。しかも、演技合戦の見せ場にもなっている。ロボット・キャラをここまでユーモラスに描いた点でも出色。「ガンヘッド」にもこういうユーモアはあったんだぜ。日本では相手にもされなかったけれど。


2007/07/22 (日)

前橋生活の知恵。

深夜、フレッセイに行ってハラピーニョ・チップスを買った。こういうことは月島生活ではありえない。前橋にいればこそ。このフレッセイはこの街のお気に入りのひとつになった。

ケヤキ・ウォークもお気に入りリストの上位だ。紀國屋書店が入っていて「監督術」本も二冊ならんでいた。ただしここのユナイテッド・シネマは映像三団体連絡会のカードを使えないので一度「ゾディアック」を見ただけで敬遠。「300」とか「ダイハード」の4本目とかやっているが1800円払って見る気がしない。

「ゾディアック」はフィンチャーにしては上出来。ある意味では「セブン」に匹敵するかもしれない。犯罪のディテールと捜索者のリレーが面白い。

800メートル男子リレーのメンツはロバート・ダウニー・ジュニア、マーク・ルファロ、アンソニー・エドワーズ、ジェイク・ギーレンホール。傑出しているのはダウニー・ジュニア。意外なところではエドワーズの存在感。ルファロはオフ・ブロードウェイの芝居で感心して以来、映画ではイマイチだったが、これは彼のベスト。ハリー・キャラハンのモデルになった(?)刑事の70年代ルックがハマっている。同じワーナー作品でありながらイーストウッドの許可が出なかったために「ダーティ・ハリー」のイーストウッド登場シーンを使えなかったのは惨めだが。劇場前のポスターもイーストウッドの首を切ったフレームで逃げている。「突入せよ!あさま山荘事件」でも同じような体験をした。

アンカーのジェイクは映画が始まって2時間というものデッド。役作りも描き方も下手。彼の役ではない。フィンチャーは機械人間に近いから親子の情感や家族の描写がまったく出来ない。子供はアクセサリー程度の扱い。そこを押さえなければジェイクのキャラが導入部から「主役風に装おう」意味がない。とはいえ、グレイ・ゾーンの犯罪映画を2時間45分もかけて描く意欲は二重丸。

もうひとつ前橋での大発見。イタリアンがうまい。今、大のお気に入りが「スパツィオ・アズーロ」。店構えもおしゃれな隠れ家風。味とプレゼンテーションは東京に持っていっても十指に入る。いや、ほんと、おいしいの。で、値段が前橋価格。

絶対的なオススメは3150円のディナー・コース。最初に行ったときは三種類の前菜、冷製スープ、カツオと野菜のスパゲッティ、地鶏のレモンソース、ドルチェ、コ−ヒ−でこの値段に大感動。無論、料理はどれもトップクラス。二度目はアラカルトで頼んでみたがこちらもすべて美味。殊に気に入ったのが気まぐれサラダ。数々の有機野菜にモッツアレラ・チーズ、生ハム、ゆでたまごなどが混じってアンチョビをアクセントにしたドレッシングで食べる。サラダ・ニソワの前橋イタリアン的アンサー。

撮影が終わるまであと数回通うことになるだろう。


2007/07/22 (日)

前橋生活の知恵。

深夜、フレッセイに行ってハラピーニョ・チップスを買った。こういうことは月島生活ではありえない。前橋にいればこそ。このフレッセイはこの街のお気に入りのひとつになった。

ケヤキ・ウォークもお気に入りリストの上位だ。紀國屋書店が入っていて「監督術」本も二冊ならんでいた。ただしここのユナイテッド・シネマは映像三団体連絡会のカードを使えないので一度「ゾディアック」を見ただけで敬遠。「300」とか「ダイハード」の4本目とかやっているが1800円払って見る気がしない。

「ゾディアック」はフィンチャーにしては上出来。ある意味では「セブン」に匹敵するかもしれない。犯罪のディテールと捜索者のリレーが面白い。

800メートル男子リレーのメンツはロバート・ダウニー・ジュニア、マーク・ルファロ、アンソニー・エドワーズ、ジェイク・ギーレンホール。傑出しているのはダウニー・ジュニア。意外なところではエドワーズの存在感。ルファロはオフ・ブロードウェイの芝居で感心して以来、映画ではイマイチだったが、これは彼のベスト。ハリー・キャラハンのモデルになった(?)刑事の70年代ルックがハマっている。同じワーナー作品でありながらイーストウッドの許可が出なかったために「ダーティ・ハリー」のイーストウッド登場シーンを使えなかったのは惨めだが。劇場前のポスターもイーストウッドの首を切ったフレームで逃げている。「突入せよ!あさま山荘事件」でも同じような体験をした。

アンカーのジェイクは映画が始まって2時間というものデッド。役作りも描き方も下手。彼の役ではない。フィンチャーは機械人間に近いから親子の情感や家族の描写がまったく出来ない。子供はアクセサリー程度の扱い。そこを押さえなければジェイクのキャラが導入部から「主役風に装おう」意味がない。とはいえ、グレイ・ゾーンの犯罪映画を2時間45分もかけて描く意欲は二重丸。

もうひとつ前橋での大発見。イタリアンがうまい。今、大のお気に入りが「スパツィオ・アズーロ」。店構えもおしゃれな隠れ家風。味とプレゼンテーションは東京に持っていっても十指に入る。いや、ほんと、おいしいの。で、値段が前橋価格。

絶対的なオススメは3150円のディナー・コース。最初に行ったときは三種類の前菜、冷製スープ、カツオと野菜のスパゲッティ、地鶏のレモンソース、ドルチェ、コ−ヒ−でこの値段に大感動。無論、料理はどれもトップクラス。二度目はアラカルトで頼んでみたがこちらもすべて美味。殊に気に入ったのが気まぐれサラダ。数々の有機野菜にモッツアレラ・チーズ、生ハム、ゆでたまごなどが混じってアンチョビをアクセントにしたドレッシングで食べる。サラダ・ニソワの前橋イタリアン的アンサー。

撮影が終わるまであと数回通うことになるだろう。


2007/07/07 (土)

谷川岳無情。

膝ががくがく。家帰ったら150%増に膨らんでやがんの。若々しい俳優部も膝に来たと言っていたから58才が何をか言わんやだね。とは言え、シーンふたつを撮ったあと、小生はテールリッジ基部から40分、素晴らしい山岳ガイドふたりに前後を守られ登ったにもかかわらず、眺めのよい岩場(中央稜基部テラス)で半死半生。6日の最終目的地のアンザイレンテラスまではこの倍を登らなければいけないと聞いてリタイア。無理をしたら翌日からの撮影に影響が出ることは必死だ。目先のことだけを考えてはいけない。監督たるものBelt and Suspendersのアプローチで進むべし。

註:Belt and Suspendersとはベルトもしてサスペンダーもするという人。山岳アクションの「バーティカル・リミット」で唯一気の利いた台詞は父親役のスチュアート・ウィルソンがこの表現を使って娘を戒めた。底の浅い映画ファンはこれが「ウェスタン」のセルジオ・レオーネのオリジナルだと思っている。ヘンリー・フォンダに言わせた「腰抜け」相手の見栄切りだ。が、この台詞は1950年代の隠れた名作へのオマージュであり、我がコメントもこの「隠れた名作」に由来している。今は発表の時期ではないので特に秘す。

「オレのことはいいからみんな先へ行ってくれ。追っ手は防ぐ」と息も絶え絶えに言って俳優陣を送り出したのが午後2時。そのとき主役の、本日のバースディボーイは、「誰がために鐘は鳴る」ですね、と言ってにやり笑った。「ブラッド・ダイヤモンド」や「ナヴァロンの要塞」をイメージしていた小生は少しだけ恥ずかしかった。やはり、気分はヘミングウェイであるべきだったのだ。


安定しているとは言え、立ってモニターを見るとふらふらする中央稜基部テラスで4時間過ごした。映像はところどころ途絶えたが前夜入念なリハーサルをやっていたので不安はなかった。音声はコードを首にかけているとアース効果なのか驚く程鮮明に聞こえた。後は無線で確認と指示。

18時に下山して来た「退却兵士たち」を迎え長時間を過ごしたテラスでワンカット撮影。18時20分に本格的な下山となった。このときも小生はトップクラスの山岳ガイドに前後を守られての吊りと支えの行進。なんというか、自分の体がベルトでありサスペンダーになった雰囲気であった。

19時15分に一の倉沢駐車場に戻る。後続の撮影部、演出部はハーネスの数が少なかったために途中でその受け渡しがあり、随分と遅れたようだ。小生は宿舎に戻り、一風呂浴びたのち20時12分に自分の車で東京へ向かった。20時55分、豪雨の前橋を通過。いかに我らの撮影がラッキーであったか悟る。谷川岳はあたたかくプロジェクト18を迎えてくれたのだ。

7月6日は標高1200メートルで放尿をした。これは58年の人生に於ける記録である。


 a-Nikki 1.02