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2008/02/23 (土) Return of Flickmania.
■プラズマだよ、プラズマ。液晶じゃなくて。ホーム・シアター。カミサンから怒られた。とにかくDVDにひたりっぱなし。脚本数ページ進んだと思うと10号棟の「試写室兼会議室」で映画見ちゃう。特典映像の濃いのがついているともうダメ。間違い勘違いの字幕があってもなんでもおれのフリックメニア魂に火がついてしまった。ゴルフ行くよりも美人を鑑賞するよりもクラシックの映像を学習している方がいい。
雪が悪い。寒くてどこへも行く気がしなくなるとついアマゾンで我が名作リストの何本か購入してしまう。寒風吹き荒ぶ佃に居住していると余計そうなる。いやいや。このDVD三昧の口きりはカミサンが借りて来た「ボルベール」と「プロヴァンスの贈り物」と「あるスキャンダルの覚え書き」のせいだ。3本ともじっくり見た。しみじみつまらなかった。
■「ボ」はアルモドヴァルのキャリアが下降しはじめたことを感じさせる駄作。ペネロピがいくらアンナ・マニャーニをやろうがダメなものはダメ。要はアルモドヴァルのタッチがスリラー、ミステリー、サスペンスにはむいていないということ。初期のアルモドヴァル作品はそのエリアに踏み込むものほど完成度が低かった。殺した旦那の始末をしようってときに撮影隊のケイタリングを引き受けちゃうなんて「なんで?」。妹が姉に殺人のことを話さず赤の他人に死体の始末を協力させるのも「なんで?」。姉が妹に母親のことを話さないのも「なんで?」。こういった「なんで?」が全編を通して1ダースくらいあってやっと長篇の尺になっている。そう。話がつながらないから過去の自作のエピソードやら役者やらテーマやら次々切り貼りしているだけ。「オール・アバウト・マイ・マザー」、「トーク・トゥ・ハー」の生命力にあふれた登場人物が醸し出す人生の意外なトゥイストがここにはない。
「プ」は以前にも触れた。ラッセル・クロウにロマ・コメ無理。リド・スコにロマ・コメもコメ・コメも無理。マリオン・コティアールを筆頭にしたフランス軍はそれなりに存在感を出せたけれど、イギリス軍はアルバート・フィニーも含めてひどかった。フィニーの娘役のドシロウトはなんだ?発声もろくにできない女優にリド・スコが惚れたのか????
「あ」はケイト・ブランシェットとジュディ・ディンチが好演しようがなにしようが「子供の時間」には程遠い幼稚で不愉快なスキャンダル。登場人物全員がうす汚い。ホンがひどい。ディンチの解説ナレーションは時代錯誤。で。ここから一気にクラシックに走ってしまうのだ。
■1月下旬から本日まで三週間で見た映像群はこうなる。 1/「冒険者たち」スペシャル・エディション特典映像(贈呈DVD) 2/「脱出」本編&特典(購入DVD) 3/「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」(レンタル) 4/「ラスト・キング・オブ・スコットランド」本編&特典(購入DVD) 5/「テンジンとパルキット」(BSドキュメンタリー) 6/「ジェシー・ジェームスの暗殺」(劇場) 7/「完全犯罪」(BS) 8/「ワイルド・バンチ」特典 9/「大いなる勇者」本編&特典(購入DVD) 10/「真夜中のカウボーイ」本編&特典映像(購入DVD) 11/「コールガール」(購入DVD) 12/「麦の穂に揺れる風」本編&特典(購入DVD) 13/「バートン・フィンク」(購入DVD) 14/「アメリカン・ギャングスター」(劇場) 15/「黄金」(購入DVD) 16/「アフリカの女王」(購入DVD) 17/「バウンスkoGALS」(贈呈DVD) 18/「赤い河」(購入DVD) 19/「それでもボクはやってない」(劇場) 20/「アラビアのロレンス」本編と特典(購入DVD) 21/「アルジェの戦い」(購入DVD) 22/「シンドラーのリスト」本編&特典(購入DVD) 23/「わが谷は緑なりき」(購入DVD) 24/「カサブランカ」本編&特典(購入DVD) 25/「捜索者」本編&特典(購入DVD) 26/「捜索者」(P・ボグダノヴィッチのコメンタリー) 27/「憎しみ」本編&特典(購入DVD) 28/「最前線物語」リコンストラクション本編&特典(購入DVD) 29/「ミリオンダラー・ベイビー」3ディスク・エディション特典(購入DVD) 30/「サンセット大通り」本編と特典(購入DVD) 31/「赤ちゃん教育」(購入DVD)
3、4、5、6、7、12、14、19が初めて見た作品。それ以外の本編は2度目から50度目まで様々。前回見たときよりも失望したのは11と24と28だけ。
■(1)はジョアンナ・シムカスの貫禄あるエレガンスに感動。60代の彼女へのインタビューと本編映像のカットバックに涙。 (2)ホークス演出の巧さに痺れる。何度見てもいい。というよりも今回の観賞がもっとも心を揺さぶられたかもしれない。純粋にボギー、バコール、ブレナンの歴史的名演を愉しんだ。 (3)イェーツの演出をチェックしたかっただけ。がんばってる。主役の若者トリオも1、2より圧倒的に巧い。が、脚本に問題あり。3、4を見ていないので意味不明なところ多し。いずれにせよ、魔法を扱った話で「死」を描くことはむずかしいことを実感。ゲイリー・オールドマンが死んだように見えない。みんなが「死んだ」と悲しんでいるから「ああ、そうなんだ」の世界。前半の設定は面白いんだけど、後半ばたばた。ストーントンおばさんも急に強くなったり弱くなたり。なんで?の連続。いずれにせよイェーツがスグレモノの監督であることに変わりはない。#6は劇場で見ることを約束しよう。
■(4)こんなによく出来た通過儀礼型冒険映画とは思ってもみなかった。ただし、ウィタカーはオスカーに値する名演かというとそうでもない。彼にしてみれば当たり前。本物のイディ・アミン・ダダの怖さはこんなものではない。ウィタカーよりもジェームス・マカヴォイの溌溂主役ぶりに魅せられた。ケヴィン・マクドナルドは「運命を分けたザイル」では買えなかったがこの演出はいい。その上手はスコットランドからウガンダへの距離感で冒頭発揮される。導入部でしか登場しないジリアン・アンダーソンも魅力的だ。「ホテル・ルワンダ」との違いはこういう演出力だ。切りとられる傍役端役エキストラの顔も、両者には雲泥の差がある。その差を見る事ができるかどうかがプロかアマかということになる。ジョー・ライト、デイヴィッド・イェーツに次ぐ英国の俊英といっていい。
■(5)フランスZED制作、ジャン・ミシェル・コリリオン演出のこのドキュメンタリーには圧倒された。チベットの秘境ザンスカール高原での少女たちの旅立ちを驚異の景観とドラマ性で綴った一編。「長江哀歌」を褒めるテアイにはこの映像を煎じて飲んでもらいたい。 (6)「チョッパー」一本でこの世界の演出は無理だぜ、ドミニック。原作にブラピーがはまったことは感じ取れるが、映画にするには蛇足のエピソードが多すぎる。1時間は確実にカットできる。言ってくれればやってあげたのに。死ぬ程退屈した前半戦だが後半はケイシー・アフレックの名演もあって飽きなかった。兄貴は一時スターとして注目されたものの大根の代名詞だった。弟は一級のキャラクター・アクターへの道を歩んでいる。今回の助演男優オスカーはハヴィアに持っていかれるが数年のうちには彼も受賞するだろう。ブラピーも、歴代のジェシー・ジェームス役者ではベスト。
■(7)たまたまTVをつけたら始まった。原題はBEST LAID PLANS。1999年度作品。導入部のホンがよくて思わず引き込まれ、最後には残念賞の軽さに堕してしまうがそれは演出の責任。テッド・グリフィンは低予算のこの変型ノアールで頭角を表わし「オーシャンズ11」の脚本家に抜擢された。今やAクラス。見事なのはヒロインを演じたリース・ウィザースプーン。オスカーを取った役どころよりもいい。中盤にぞくぞくするような情感を感じさせる。オチの軽さがポイニャンシーに昇華されていないために彼女の名演も空回りしてしまうのだが。助演のジョッシュ・ブロリンも巧い。このころから大器の片鱗を匂わせていたんだね。主役のアレッサンドロ・ニヴォラも魅力的だがリースやジョッシュに遅れをとっている。「ゴール」ではサッカーもうまかった。出世前のテレンス・ハワードもつまらない役をチャーミングに演じている。監督のマイク・バーカーも英国出身。イェーツらよりは大分落ちるが成長株であることは間違いなし。いずれにせよ、携わった人間たちが一流になったわけで時代とともに再評価される作品だろう。
■(8)ザ・ウォークの撮影風景に涙、涙。 (9)コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」と奇妙にシンクロする世界観がある。つまり現代にも通ずる大自然と人間の営みが魅力だ。単なるウェスタンではない。時代がジェレマイア・ジョンソンの世界に近づきつつある。通しで見るのは三度目だが、レッドフォードが主演したものの中では最も年月を感じさせない作品ではないだろうか。 (10)古さは如何ともしがたいが、ダスティン・ホフマンのリッツォが登場すると名画が動き出す。やはり若者たちが一度は通過しなければいけない映画であり、時代の記憶だ。愚かな「カーボーイ」表記はやめよう。カウボーイの話なのだから。(11)大落胆。三十年ぶりに見てジェーン・フォンダのオスカー演技に不快感を覚えた。この程度の「わたしに主演女優賞をちょうだい」演技に感動していたとは。 (12)ケン・ロ−チ演出の限界が見える。彼の作品としては平均点。兄弟の描き方が杜撰。 (13)これも時代を超えて輝く名作。コーエン兄弟の中では「ノーカントリー」に匹敵。 (14)既に論じた。 (15)これがまだ二度目だが、以前よりも遥かに感動した。ヒューストン渾身の名画。父親をこれほどカッコ良く描けた監督はジョン・ヒューストンひとりだろう。 (16)四、五回見ているが今回がもっとも醒めた見方かもしれない。導入部、ふたりが河を下るための「契約」が弱い。ボギーがケイトに金で雇われることをはっきりさせた方がいい。でなければ、兄を殺されて狂信的な愛国者になったケイトをなだめすかすために騙し騙し河を下るうちにいつの間にか彼女の術中にハマるとか。中盤から後半はボギーとケイトの魅力で名画の価値を存分に発揮するものの、現時点でのおれの評価は「黄金」よりも格下。ランクが逆転した。
■(17)塩屋俊がらみのエピソードあたりでダレたが終盤また勢いを取り戻し安心。全然古くなっていない。音楽もテンポも。四人娘はそれぞれに束の間の青春を燃焼させて気持ちがいいし、ムラジュンも最高。ムラジュンのサップや「伝染歌」でも使ったモロ/遊人中心に今の「渋谷的24時」をやってみたくなる。 (18)Forever FANTASTIC! (19) A guide book to the Japanese judicial system. (20)おそらく、今、生涯のトップ10を選ぶとすればこのデイヴィッド・リーン・エピックは五位までに入る。中学生のとき静岡ミラノでの初見以来どんどん近づいている。最初は「大作だが退屈」であったものが十数回の観賞を経て、今や、監督キャリアの目標とも言える。これは映画作りの至福の現場だ。
■長くなった。おれも疲れたが読む方も疲れるだろう。21番以降は明日に譲って仕事をしよう。働かなくっちゃ。
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