2015/11/23 (月) SWEET NOVEMBERは何処?
■ 世界的にも個人的にも心が激しくゆさぶられる出来事が怒濤のように押し寄せている11月。いい意味でのゆさぶりは、16年ぶりにマウイ島のカパルア・プランテーション・コースでラウンドしたことだろう。
16年前、「金融腐食列島・呪縛」を持って初めてHIFF(ハワイ国際映画祭)に参加したとき、カミサンと相談して、ほんの少し贅沢をすることにした。マウイ島での二泊三日の休暇だ。このサイトを立ち上げた初期のダイアリーで、そのときのことは書いていると思う。ホテルは超一流に泊まるだけの経済力がなかったが、次のランクのハイアットならなんとかなった。その代わり食事とゴルフは「島で一番」を選んだ。それがデーヴィッド・ポールのラハイナ・グリルとカパルア・プランテーションだ。
わたしのゴルフは、このプランテーション・コースで開眼したと言える。つまり、ゴルフとはSENSE OF A PLACEであると悟った。スコアは二の次。壮大な景観と一体感を味わうラウンドこそゴルファーの生きる歓びだ。
故に、以来、腕は上達しないが人間が知恵を使って自然を取り込んだコースの景観を愉しみ、映画作りの感性を養っている。
■ 16年ぶりのプランテーション・コースはより壮大さを感じさせる巧みが随所にあった。5分ほどの通り雨に出会ったが、天候は総じて理想的で、モロカイの島と太平洋の眺めは人間のすべての愚行を忘れさせる崇高な美に満ちていた。 自然を自然のままにしておくことも必要だが、このように自然と人間の共存を確保する場を築くことも必要だ。
不思議なことに、ラウンドした仲間は、16年前と同じ男女構成および年齢構成となった。つまり、若い白人カップル(奥さんは見学のみ)とシニアの白人。連帯を高める気持ちのよいラウンドだった。
アウトは1番とふたつのロングホールで手こずったが49で廻り、インではようやくレンタルクラブにも慣れて、ティーショットも他のふたりを越える飛距離が出るようになった。10番でパー、14番でバーディを取ったあと急に体のメカニズムが狂った。15、16番で球は上がらずシャンクは出る、で17番からは見学に徹した。
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今回の旅では、カミサンと協議の上同じカパルアのリッツ・カールトンに二泊した。十年に一度の贅沢だ。ゴルフが終ればホテルのシャトルで迎えに来てくれる。24時間オープンのフィットネス・センターはあるし、海を見下ろすプールも素晴らしい。この朝も、広々豪華なジムで30分汗を流したあと、ホテルの裏のスロープを降りて海岸に出た。
人はまばら。泳ごうと思ったが強烈な力で海に引き込まれそうになり、波打ち際で時に腰までしぶきを浴びながら波と戯れるだけにした。海と地球のバイブレーションに魅せられる。波の音、潮風、南国の香り、陽光のすべてをじっくりと味わう。痛切に、この場所へ戻りたい、と思う。来年でなければその次の年に。そう考えるだけで、湧いて来る力があった。しかし、その力も、午後の1ラウンドを乗り切ることはできなかったわけだ。
ラウンドの後のディナーはLAHAINA GRILLで、16年ぶりに食べた。昔ついていた「デーヴィッド・ポール」の冠はないが、今も、マウイで一番人気のレストランだ。サーヴィスも最高。殊に我々のテーブルについたマイケルはギャルソン道の見事な具現者だった。妻の誕生日が四日前だったと聞くと、素早くバースディ用プレートを用意してくれた。「誕生日には四日間のグレイシャス・ピリオドがあります」と言って。
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HIFFでは「日本のいちばん長い日」と「駆込み女と駆出し男」の一回目の上映に立ち合った。(二回目はわたしがオアフを去ったあとだった)。どちらも450席の大劇場。終映後のQ&Aがより活発だったのは「長い日」。大多数が残り、白人観客を中心に突っ込んだ質問も出た。ハーバート・ビックス本などによってねじまげられた昭和天皇像をわたしが知りえた限りの知識で修正したこともあって、昭和天皇に関しての新たな光明を感じたという感想が圧倒的に多かった。
英語版のウィキペディアのHIROHITO項目に於ける「ねじまげられた昭和天皇像」が、アメリカでは一般的になってしまっている。イデオロギーに毒されていない真摯な昭和天皇像を、機会あるごとに語っていかなければいけないと思う。観客のひとりであったTVパーソナリティーから自分の番組に出て、昭和天皇について語ってくれ、という申し入れもあったが時間がなく諦めた。全米公開を望む声は多くある。実現してほしいと切に思う。
ハワイに発つ前日には自作「盗写250/1秒」のリメイク「SCOOP!」の撮影現場を訪問し、福山雅治さんと話す事ができた。わたしが「盗写」を書いたとき理想として夢見た主人公がまさに今回の福山さんだ。ガタイがでかくてぶっきらぼう無神経なのに、そこはかとなくセックスアッピールがある、皮が一枚はがれていくたびに繊細さが匂う・・。そういうスターは当時いなかったから細胞分裂させて原田芳雄兄貴と宇崎竜童さんに「合わせてひとり」をやってもらったようなところがある。大根脚本はそこを本来あるべき姿に戻して、静と野火のドラマに突き進んでいる。二階堂ふみ様の野火も吉田羊様のサダコもぴったり。今、わたしが自分でリメイクするとしても選ぶ配役だ。
「クライマーズ・ハイ」以来、なぜか原田組には無縁の滝藤賢一(敬称略)とも話す事ができた。オファーはしてるんだけどね、滝藤は忙しくてね、出演できないんだよね、わたしの映画には。「長い日」の場合はスケジュールの関係で坊主にできないって事務所から言われたんだよな。ま、いいか。中村育二様が編集長というのも原田組オマージュといったらいいのか、愉しい。
それにしても福山さんの存在感は素晴らしい。よくぞ実現してくれた。大根仁監督と川北桃子プロデューサーの連係プレイの成果だと思うが、なんとも羨ましい限り。負けずに、わたしも2017年以降の福山企画に精進しよう。
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