2016/07/08 (金)

GOOD DAY FLICKMANILA


国際交流基金の招きでマニラに入ってきょうは三日目。夜は郊外のCCP(フィリピン文化センター)で「日本のいちばん長い日」が上映される。上映前には記者会見。上映後にはQ&Aセッション。愉しみだ。既に個別取材はいくつか受けている。

フィリピンは「地獄の黙示録」撮影見学以来38年ぶりだと思う。急激に変化した部分では、クアラルンプールかシンガポールにいるのかわからなくなる高層ビル群がある。私の宿泊先に近いシャングリラ・プラザのあたりはまさにある意味没個性的なアジアの大都市だ。

しかし、変わらぬアジアのゲットー風味も残っている。ムンバイのように、高級住宅地と隣接したスラムがあり、そこにマニラの風味がある(ゴミ山の生活者もまだまだ多いという話だ)。その風味を人類学的見地で映像に記録しているのが、フィリピン・インディーズの波だ。



今年の日本映画週間EIGASAIは、フィリピン・ヌーベルバーグの中心として過去10年近くインデペンデント映画の作家たちを発掘してきたCINEMALAYAと共催という形をとっている。

8月4日オープニングのシネマラヤの記者会見が昨日は開かれ、私も出席した。昨夜のEIGASAIオープニングのイヴェントにはシネマラヤのディレクターも参加して「日本のいちばん長い日」のCCPでの特別上映を宣伝してくれた。

EIGASAIオープニング上映は我が「KAKEKOMI」。松竹の協力で信次郎とお吟の衣装も一点づつ届き、巨大なシャングリラ・プラザのイヴェント会場に展示された。(じょごの衣装は行方不明なのだそうだ)



上映会場はシャング・シネプレックスのシアター2。場内345席は招待客で埋め尽くされた。私は、上映前に短く作品紹介をしたあと、別の劇場で、丁度7月6日から公開されたばかりのブリランテ・マ・メンドーサの新作を見た。今年のカンヌでジャクリン・ホセが主演女優賞に輝いた “MA’ ROSA”だ。

メンドーサといえば、フィリピンの熱い新風の中心勢力。昨年のTIFFでは特集上映もあった。見たい作品もあったが、私自身の特集上映とぶつかり見る事ができなかった。

さて「マー・ローサ」。

まさしく、人類学的見地でマニラのゲットー・ファミリー・ライフをえぐりだした傑作である。このanthropological studyというアスペクトを映画で初めて使ったのはマーティン・スコセッシの「ミーン・ストリーツ」、「レイジング・ブル」から「グッド・フェラーズ」にいたるリトル・イタリーを舞台にした「生まれ故郷の兄ちゃん、おじさん中心の犯罪映画」的心だから、当然、ここにはクライム・ドラマの風雅とわくわく感がある。生まれ故郷のおばちゃん犯罪映画だ。家族を愛するがゆえに犯罪に手を染めたマー・ローサの悔しさ、無念の心が最後で光る。

ジャクリンは、すさまじく、見事。

彼女のファミリー、薬まみれの旦那と三人の子供たちも素晴らしい。襲い来る刑事たちの演技もすごい。ディーラーもゲットーの住民も親戚もゲイの顧客も牢獄につながれている老人の立ち姿も、出て来る人物すべてが、芸術としての人類学研究に昇華されている。つまり、メンドーサ監督の芸術だ。

カンヌで1、2着をしめたケン・ローチとザビエ・モランの作品を見ていないのでなんとも言えないが、私が審査員の椅子に座っていたらパルム・ドールか、でなければグランプリと主演女優のダブル受賞を推しただろう。

少なくとも、前年度の1、2着、ジャック・オーディアールの「ディーパン」(邦題は忘れた)や「サウルの息子」よりも圧倒的にいい。


2016/07/03 (日)

ふう。


本読みに誕生日祝の冠がついた。次回作の仲間たちに祝ってもらえてとても得をしたような気分。

しかし、67ですよ。

ドジャースの背番号で言えば当落ぎりぎりの中継ぎ、ルイス・コールマン。66ならば、話題の問題児ヤシエル・プイグだったけれど。68も69も70も、これから先は地味目の数字ばかりだなあ。


2016/06/13 (月)

映画は毒婦だ、ヤマヒルだ。


二ヶ月以上更新せず、というのは初めてだな。新作の準備で忙しいにしても、これは前例のない怠惰。というか、詩人のこころを失ってしまったのかも。脚本ならせっせと書くのに、ロングメイルの類を書くのがつらい。言葉が出ない。

今、京都にいる。新作時代劇のための最終ロケ地チェックだ。京都にいると、心豊かなヴィジター感覚で色々考えることができる。考えていたことを整理することもできる。

久しぶりに「東洞」へ行った。先ずサーモンのマリネと新生姜のアグロドルチェを食した。映画人の心を揺さぶる美味だった。

なぜなら。

天才水谷シェフが取り寄せたサーモンの産地はフェロ島。

イングマール・ベルイマンの終の住処の、あの島である。

ベルイマンも食したサーモンなのである。

それが京都の新生姜および野菜群と出会った一皿なのである。

私はベルイマンの名作を噛み締める思いでいただいた。



前菜二番手はマルサラワインでマリネしたフォアグラ&オレンジのマルメッラータとブリオッシュ。続くは駿河の赤バイ貝と姫筍のリゾット。さらに全粒粉の平たいパスタ(ブレクス)の粗挽き豚ミンチとオレンジのラグー。

メインの一番手はグアンチャーレと大根のズッパに浮かべた鯛のインパデッラ。で、肉メインは牛肩ロース肉のビステッカ&シチリア産サーレグロッソとライム添えにしようかスペイン産豚ロース肉のアロスト&新じゃがと新にんにくピゼッリーニのピュレにしようか仔羊の香草焼きグリーンタプナード添えにしようか迷った挙げ句、仔羊に。

なんというか。

大奥㊙物語の将軍様になった気分。

ではなく。

映画は毒婦だ、ヤマヒルだ、という思いを抜けた先の、至福のディナーでございました。



4月23日の夜だったか、突然、映画作りのプロセスは、毒々しい娼婦性をもった美女に誘惑される気分に似ているのではないか、と思い、隅田川に向かってツバを飛ばした。

12階から飛ばすツバは地上に着く時には虫除けスプレーひと吹きの威力もないからだれにも迷惑をかけることはなかった。

5月19日ころになってすべて明白になり、「毒婦の誘惑」を脚本から排除した。詩人のこころで、切り捨てるべきものを切ることができた。というか、「毒婦の棲む映画」から解放された。

そして、きょうの午後、琵琶湖湖畔の林と比叡山で、ヤマヒルの静かな、そして血も凍る攻撃にさらされて、詩人のこころは完全復活したのでした。

撮影が始まるころは、毒婦もヤマヒルも出て来ないので、俳優部の皆様、ご心配なく。

しかし、ドジャースは弱い。みっともない。全盛期の岡野をホーフツとさせる浅野の「勝負しないFW」もみっともない。でもまあ、ドナルド・トランプや舛添都知事や自民党に比べれば、みんな元気で凛々しいよな。


2016/06/13 (月)

映画は毒婦だ、ヤマヒルだ。


二ヶ月以上更新せず、というのは初めてだな。新作の準備で忙しいにしても、これは前例のない怠惰。というか、詩人のこころを失ってしまったのかも。脚本ならせっせと書くのに、ロングメイルの類を書くのがつらい。言葉が出ない。

今、京都にいる。新作時代劇のための最終ロケ地チェックだ。京都にいると、心豊かなヴィジター感覚で色々考えることができる。考えていたことを整理することもできる。

久しぶりに「東洞」へ行った。先ずサーモンのマリネと新生姜のアグロドルチェを食した。映画人の心を揺さぶる美味だった。

なぜなら。

天才水谷シェフが取り寄せたサーモンの産地はフェロ島。

イングマール・ベルイマンの終の住処の、あの島である。

ベルイマンも食したサーモンなのである。

それが京都の新生姜および野菜群と出会った一皿なのである。

私はベルイマンの名作を噛み締める思いでいただいた。



前菜二番手はマルサラワインでマリネしたフォアグラ&オレンジのマルメッラータとブリオッシュ。続くは駿河の赤バイ貝と姫筍のリゾット。さらに全粒粉の平たいパスタ(ブレクス)の粗挽き豚ミンチとオレンジのラグー。

メインの一番手はグアンチャーレと大根のズッパに浮かべた鯛のインパデッラ。で、肉メインは牛肩ロース肉のビステッカ&シチリア産サーレグロッソとライム添えにしようかスペイン産豚ロース肉のアロスト&新じゃがと新にんにくピゼッリーニのピュレにしようか仔羊の香草焼きグリーンタプナード添えにしようか迷った挙げ句、仔羊に。

なんというか。

大奥㊙物語の将軍様になった気分。

ではなく。

映画は毒婦だ、ヤマヒルだ、という思いを抜けた先の、至福のディナーでございました。



4月23日の夜だったか、突然、映画作りのプロセスは、毒々しい娼婦性をもった美女に誘惑される気分に似ているのではないか、と思い、隅田川に向かってツバを飛ばした。

12階から飛ばすツバは地上に着く時には虫除けスプレーひと吹きの威力もないからだれにも迷惑をかけることはなかった。

5月19日ころになってすべて明白になり、「毒婦の誘惑」を脚本から排除した。詩人のこころで、切り捨てるべきものを切ることができた。というか、「毒婦の棲む映画」から解放された。

そして、きょうの午後、琵琶湖湖畔の林と比叡山で、ヤマヒルの静かな、そして血も凍る攻撃にさらされて、詩人のこころは完全復活したのでした。

撮影が始まるころは、毒婦もヤマヒルも出て来ないので、俳優部の皆様、ご心配なく。

しかし、ドジャースは弱い。みっともない。全盛期の岡野をホーフツとさせる浅野の「勝負しないFW」もみっともない。でもまあ、ドナルド・トランプや舛添都知事や自民党に比べれば、みんな元気で凛々しいよな。


 a-Nikki 1.02