2020/04/29 (水)

ジシュクとヒンシュクの日々。



過日、NETFLIXの新作「タイラー・レイク/命の奪還」を見たときのこと、私としてはかなりぎょっとする事態に遭遇した。

このアクション大作の製作は「アヴェンジャーズ」フランチャイズを担うラッソ兄弟。そのシリーズや「アトミック・ブロンド」などでスタント関連の仕事をして来たサム・ハーグレイヴが監督デビューした作品ゆえ、アクションにエネルギーを注ぎプロットがおろそかになっている。

「アトミック」の階段アクションをしのぐRIDICULOUSなギミック・ワンカット風の見せ場もある。映画の出来とは関係なく、ここは凄い。

こういう見せ場は、スタント関係から監督になった連中のSHOW-OFF、いわば、見栄っ張りマッチョ・コンテスト。「もっと凄いやつやったるで」メンタリティというか昭和の小学生のおチンチンの大きさの競い合いで、映画監督としてリスペクトできるものではない。

アスリートの美技に対してあきれびっくり系の褒め言葉「RIDICULOUS賛辞」がぴったりなのだ。



知性はどこかに置き去りにされているから、やたら殺しまくって、善玉は撃たれまくっても死なない。ただし、設定がバングラデッシュのダッカ(撮影したのはインドとタイ)ゆえ映像的には目新しい。そして、クリス・ヘムズワースが、心はさびしい傭兵役でメインを張っているから安心して見ていられる。

そこに、インドのスター、RANDEEP HOODAが絡む。節操のない脚本だから、彼の役は敵になったり味方になったりのご都合主義なのだが、私はすっかり、この役者が気に入ってしまった。日本語表記が気になって調べたら、ランディープ・フッダーもしくはフーダーとある。私は「フッダ」かと思ったが、後々本人の意志を尊重して正しい表記に統一してほしい。

ギョッとしたのは撮影監督の名前だ。ニュートン・トーマス・サイジェル、とある。

え?え?え?



「ユージュアル・サスペクツ」以来、そこそこに私好みの仕事をしているニュートン・トーマス・シーゲルがいつからサイジェルになったんだろう。

「ワルキューレ」あたりまでは日本でもシーゲル表記だった筈なのだが、ウィキペディアも、「ボヘミアン・ラプソディ」のクレジットも、サイジェルなのだ。本人の意志で間違いを訂正したのだろうか。

SIGELをサイジェル?

ウェブリオの発音で調べても、SIGELはシーゲル、もしくは100歩譲ってシーガルにしか聞こえない。

で、YOU TUBEの助けを借りた。NEWTON THMAS SIGELのインタヴューがないかと探したら、一発で出た。

開口一番、彼は「私の名前はニュートン・トーマス・シーゲルです」と言っている。

ドン・シーゲルのSIEGELもSIGELも、シーゲルという発音なのです。

なぜ正しい「シーゲル」表記が誤った「サイジェル」表記になったのか。例えば、SがNならナイジェルになる。英国の役者では即、ナイジェル・グリーン、ナイジェル・ホーソーン、ナイジェル・ヘイヴァース、ナイジェル・パトリック、ナイジェル・ダヴェンポートが思い浮かぶ。どこかの洋画宣伝マンにナイジェルという名前のイギリス人のお友達がいて、シーゲルをサイジェルにしてしまったのだろうか。

世のヒンシュクを買う行為をする人間は日々増えている。日本の場合は首相以下政府閣僚の大多数がそうだ。メディアにも、多い。そっちの糾弾は非映画人の善人たちに委せよう。私はとりあえず「サイジェル」にこだわる。誰がいつどこで勝手な命名をしたのか、猛烈に知りたい。その作業をした愚か者を、口を極めて罵りたい。悪貨が良貨を駆逐してはいけない!


2020/04/27 (月)

DAY 67 クランクアップ!


去年4月27日のジャーナルから。

10:00起床。「吉川」で天ぷらコースのランチ。天上のかき揚げも追加。ホテルに戻ってドジャー・ゲームを見る。ベリンジャーが1回裏に13号2ランを放ってホームでの連続ホームラン記録を更新。

17:15出発で北野天満宮へ。夜市のシーン。エキストラのみ。雨で30分待機。19時に開始できる。5分で終了。クランクアップ。北野天満宮のお祓いで始まり北野天満宮で終わったブックエンド感あり。

ディナーはスタッフ有志と「京富庵」の鳥の水炊き。そのあと祇園新橋の岡あいさんの店へ。ここは司馬遼太郎先生も通ったという。「やぶ内」の女将の紹介。岡ママの尽力で2月には祇園新橋を走り抜ける新選組の絵も撮れた。京都人脈は素晴らしい。京都は映画作りの桃源郷、というか、エル・ドラード。



振り返ってみれば、一年前の4月27日は夢見心地であったと思う。5月になって我々「燃えよ剣」関係者は運命の逆転を味わう。そこを乗り切ってポストプロを終え、クリスマスの頃、初号試写をやって再び映画作りの幸せを噛み締め、年が明けて、ゆるゆると押し寄せる災厄の波にのみ込まれた。

過去の例でいえば、「KAMIKAZE TAXI」も数々の苦難を乗り切り、多くの観客の歓びと出会えた。

「燃えよ剣」はそれ以上の苦難を乗り越え、その数十倍の観客の歓びと邂逅できると思う。

(コロナ禍の)時代を追うな。夢を追え。


2020/04/26 (日)

DAY 66 役者がらみはすべて終了。



去年4月26日のジャーナルから。

9:30出発、東本願寺へ。シーン#28「二条城、庭園」シーンを二条城の一室という設定に変え白書院で撮る。「関ヶ原」の、三成と家康の最後の対面を撮って以来の空間だ。なつかしい。ここでは慶喜が松平容保のやり方を手ぬるいと叱責する。山田裕貴と尾上右近のバランスがいい。スムースに進むがランチタイムに車両部一名倒れ騒然となる。急性心筋梗塞。救急車で病院に搬送され、ことなきをえた。

午後は大寝殿を二条城大広間に見立て、シーン#135の大政奉還。この空間も「関ヶ原」以来。伏見城の千畳敷広間を撮った。今回は、慶喜の決断を聞く容保と近藤勇の反応がメイン。諸藩の家老格でのエキストラは50名。これにプラスして滋賀の強力サポーターたちも幕臣役で出演。彼らの衣装、およびポーズはペリー艦隊に随行して日本へ来たウィルヘルム・ハイネのスケッチを参考にしている。

15時に終了。達成感と脱力感がいっぺんに押し寄せる。残すは明日の「夜市」シーンのみ。勇とハグ、容保とハグ、慶喜とハグ。



近藤勇を鈴木亮平で、という発想は遥か昔からあった。「西郷どん」よりもずっとずっと昔だ。第一、私はNHK大河のテンポもセリフも演出(というより交通整理のレベルか)も嫌いだから、殆ど見ることがない。

亮平の近藤勇は、口径の大きな殺陣から土方とのバディ・トーク、アイリッシュ風多摩仕込みダンスまでこなしている。どの局面を切り取っても、亮平の本気度はハンパではなかった。最高の形で原田組初参加の難役をこなしてくれた。これからはその英語力も生かし、活躍の場を世界に広げてくれると確信している。

ディナーは大好きなフレンチの料理屋「ステファン・パンテル」へ。この日のスープはブイヤベース風。サカナ料理は鯛。フキノトウに味噌を加えたソースが絶品。肉料理はロースト・ポークを三種の味わいで。シグネチャー前菜のフォアグラ奈良漬け巻きもいつもどおりのおいしさ。

ここの7品コースは「燃えよ剣」の七人衆に匹敵する。どこから見ても完璧、どう食べてもおいしい実力派ぞろい。ではその七人がだれとだれか、となると、それは見るものの好みにお委せ、あるいは日替わりメニューということで・・・。




2020年4月26日。

ひゃあ、NETFLIXでいいモノを見てしまった。ポーランド産の犯罪映画「ブレスラウの凶禍」。主役の女刑事ふたりが最高。

本来は美人なんだろうけどここでは陰険パンキッシュなマウゴジャータ・コズホフスカとバギーパンツでブッスーい演技派ダリア・ビダフスカ。

監督は強面スキンヘッドのパトリック・ヴェガ。脚本の種明かしフラッシュバックが多過ぎる難点はあるけど、93分、テンポ抜群の演出。猟奇殺人度はすさまじい。

とはいえ、この殺人鬼、今の日本で描きたいタイプでもある。


「ブラスラウ」が面白かったのは、昨夜、三十数年ぶりにベルトラン・タヴェルニエの「ラウンド・ミッドナイト」を見て、ショックを受けるほどに退屈した反動もあるかも。

それにしても37才で見た時の感動はどこに消えたのだろう。デクスター・ゴードンの芝居は、相変わらずよかったが、彼のテナーサックスの流儀が、1959年風とはいえ、退屈だった。フランソワ・クルーゼの役どころも、都合のいいファンぶりも映画的な短気キャラも嫌だった。


2020/04/25 (土)

DAY 65 土方の出番はすべて終わる。



去年4月25日のジャーナルから。

8:00出発で津山へ。くもり。京都は雨がパラついていたが西へ向かうにつれ、雲の隙間に青空も見えて来る。2時間15分で津山鶴山公園に到着。日射しもある。強行してよかった。天気には8割がた、救われている。

シーン#162「五稜郭の高台」から撮り始める。土方が市村鉄之助(森本慎太郎)に姉夫婦へのメッセージと写真を託すシーンだ。鉄之助はここまでいくつかのシーンに登場しているのだが、際立つような撮り方はしなかった。アンサンブルの一部として背景に控えている、それが鉄之助の立ち位置だった。ここは違う。慎太郎は凛々しく映える。

ランチは地元有志の牛そじり鍋、ホルモンうどん、牛肉メンチ、おにぎり。美味。津山市長と産業経済部長もおみやげどっさりで応援に来てくれる。映画人へのローカルのサポートは嬉しい。



午後は#163の「五稜郭の石垣」を撮る。土方と、箱館までついてきた旧新選組隊士との最後の会話シーンだ。

15:00、土方の出番はすべて終了。ビッグ・ハグ。気分としては、第二次大戦下の暗号文「鷲は舞い降りた」をもじって「鷹は舞い降りた」。私は、ハワード・ホークスの弟子だから。「燃えよ剣」の岡田准一はホークス作品のケイリー・グラントやボギーやジョン・ウェインの系列に連なる堂々たる主役だから。

帰路、二条の耳鼻咽喉科に立ち寄る。耳と鼻からの噴射で、ポワポワしていた耳が通る。エレガントな女医先生からは「通ってますやんか」と言われたが、今、通してもらったんですよ。すべて順調。


2020/04/24 (金)

DAY 64 西本願寺、随心院。



去年4月24日のジャーナルから。

朝、谷口チーフ助監督から電話。天気予報は徐々に変化し曇りマークが増えているので、25日の津山城趾の撮影にゴーサインを出したい、とのこと。了解する。

11:30、ホテル出発。12時開始で西本願寺奥の院での撮影。松平容保(尾上右近)が京都守護職を押し付けられるくだり。やっと松平春獄が登場する。演ずるはカムカムミニキーナの座長松村武さん。貫禄があっていい。口舌は金田龍之介さんばり、とヴェテラン・スタッフが感心する。

慶喜(山田裕貴)は久しぶりの再登場。このシーン#21「江戸城御用部屋」が映画での彼らのお目見えシーンとなる。慶喜はここから全シーンで特異な存在感を発揮している。スケジュールを縫うのが大変だったが、山田クンにしてよかった。

涼介の総司、裕貴の慶喜、ふたりの山田君にはある意味対照的な感性を与えている。本人たちもそれを愉しんでやってくれている。カツラ関係で多少手間取るものの、すらすらと進み予定通り終了。

16:30、随心院へ移動。夜の江戸会津藩邸シーンをふたつ。17:30から雨となるが1時間で止み、撮影に支障はなかった。明日もこんな風に進むだろうと楽観視する。ただし、この夜の夢は焦り系の三本だて。ディテールは忘れた。


 a-Nikki 1.02