|
2022/04/14 (木) 2022年の第一号!
■はい、本年度の一発目です。スプリング・トレーニングで三振を大量生産し続けたコディ・ベリンジャーが開幕5戦目にして、やっと、第一号ホームランを打ってくれた。これで、私も元気が出た。ブログを更新する気分になった。
遠ざかっていた理由は、先ず1月中旬までプロジェクトBを撮影中だったこと。その編集が2月までかかり、ほぼ並行して、来年夏以降クランクイン予定のプロジェクトFの脚本直しに取り掛かってしまったこと。これは、既に完成していた単独映画としての脚本を前後編に拡張する作業で、やり始めてみると、結構大変。
さらに、悪戦苦闘の最中、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、時計の針を100年巻き戻すかのような事態になった。気分が沈み、2月末には終える予定の作業が、4月までかかった。
プロジェクトFは傲慢横暴な権力者を20年近くかけて仕止める話であるゆえに、プーチンへの怒りが重なって、CNNを中心とするニュースを見る時間が劇的に増えてしまった。さらには、何をどう書いても悪意を持ってねじ曲げた解釈をするやつが必ず出て来る。そういうネットをめぐる煩わしさも面倒になった。
とはいえ、この広い世界に100人前後の、私の視点なり言葉なりを待ち望んでいる人もいるわけで、そういうサポーターに心配をかけてもいけない。そろそろ、そろそろだな、と思っていたところへ、ベリンジャーの一発。
元気に復帰ですよ。
となると、書きたいことがいっぱいありすぎててんこ盛りの海鮮丼になりそうなので、今日はトロの鉄火丼レギュラーサイズの気分で。
■ 実を言うと、3月中旬以来、私はアンドレア・ライズボロー怪奇現象といったものに取り憑かれている。監督心理的には、完全無比のオブセッション、と言える。
若い頃のアンドレアは、2010年の「わたしを離さないで」や「ブライトン・ロック」で私の「気になる女優リスト」に加わった。2013年には「オブリビオン」でトム・クルーズの相手役に抜擢され、一気にスターダムに駆け上がるかと思ったら、そうはならなかった。彼女自身がハリウッド大作よりも、役柄へのチャレンジといった演技の磁場を楽しむ求道者だったのだろう。
私にとっても、気になる女優ではあったが、次の作品を待ち望むほどではなかった。2014年の「バードマン」でも、2016年の「スターリンの葬送狂想曲」でもその演技力に唸りはしたが、取り憑かれはしなかった。
それが、今年3月、2019年製作のAmazonリミテッド・シリーズ「ZERO ZERO ZERO」を見ることで一気に変わった。今までどんな女優にも抱いたことのない探究心が湧いた。いつどこで、彼女はこんなに神がかりの、気高き円熟味を手繰り寄せることができたのか。どの監督の元で、高度なギアチェンジができたのか知りたくなり怒涛のアンドレア追っかけが始まったのだ・・・。
アンドレア鑑賞会と「ZERO ZERO ZERO 宿命の麻薬航路」讃歌は長くなるので次回に譲る。今回は米アカデミー賞作品賞候補の話題に触れよう。(日本映画で初めて作品賞以下四部門でのノミネーションを勝ち取った「ドライブ・マイ・カー」の快挙には素直に拍手を送りたい)。
■ アカデミー賞作品賞にノミネートされた10作品は、7月公開の「リコリス・ピザ」以外の9本を見ることができた。その順位は、こうなる。
1/「ベルファスト」 2/「ドリームプラン」 3/「デューン砂の惑星」 4/「ナイトメア・アリー」 5/「コーダあいのうた」 6/「ウェストサイド・ストーリー」 7/「ドライブ・マイ・カー」 8/「パワー・オブ・ザ・ドッグ」 9/「ドーント・ルック・アップ」
上位4作品の評価がA。5位、6位がA -。以下B +、B、Cと続く。ちなみに「コーダ」が作品賞を取ることは当日会場にいた大多数のアカデミー会員同様、私でも予想できた。アカデミー賞には周期がある。「異端」が続くと、必ず、アメリカのCAN DO SPIRITを称える映画に票が集まる。今年の候補作からそれをあげるなら「ドリーム・プラン」と「コーダ」だ。しかも「コーダ」は作品賞を占う目安となるSAG全米俳優協会のアンサンブル賞Outstanding Performance of a Cast in a Motion PictureカテゴリーとPGA製作者協会の2冠を制している。これはガチガチの本命だったといっていい。
ちなみに、アンサンブル賞の「コーダ」受賞者は6名(エミリア・ジョーンズ以下ロッシ家の四人と、ヴィラロボス教授、マイルス)。他のノミニーは「ベルファスト」(6名)、「ドリームプラン」(6名)、「ドーント・ルック・アップ」(14名)、そして作品賞候補にはならなかった「ハウス・オブ・グッチ」(7名)。
■ その前の年には、作品賞を取った「ノマドランド」はアマチュアが多かったためかアンサンブル賞にはノミネートもされず、「シカゴ7裁判」の11名が受賞した。「ノマドランド」はPGAの作品賞を受賞したように記憶している。さらに、その前年は「パラサイト半地下の家族」の10名が受賞し、アカデミー賞作品賞にも輝いた。この年、PGAが選んだのは「1917」だった。
個人的に、米アカデミー賞で候補となることは夢のまた夢だが、受賞したい賞となると、その筆頭はDGA全米監督協会の監督賞とこのアンサンブル賞だ。2023年公開のプロジェクトBは、アメリカで公開されれば、今まで作った自作の中で、それらに一番近い作品になりうると確信している。
普通盛りの鉄火丼がつじ半てんこ盛りの海鮮丼になりつつあるが、ここで止めるわけにはいかない。続けよう。
■ 「ベルファスト」は限りなくA +に近いAだ。その微妙な差は何かというと、「ハイ・ヌーン」。ケネス・ブラナーのその気持ちはよくわかる。少年期の自身の目線に忠実ならば、宗教的対立政治的決闘に巻き込まれた父ジェイミー・ドーナンの立ち姿にディミトリ・ティオムキンの名曲を重ねたくなる気持ちはよおおおおくわかる。でも経験値の高い監督ならば、そこは耐えて、我が思いを殺して、監督の匠を優先させて欲しかった。そこ以外は、文句のつけようがない。というか、終盤の「真昼の決闘」を超えた展開が力強く、ヴィジュアルな詩心に満ちたラスト数カットの流れにはノックアウトされた。
個人的には、SAGのアンサンブル賞も、オスカーの作品賞も「ベルファスト」が取るべきだった。カトリーナ・バルフ、ジュード・ヒル、キアラン・ハインズ、ジュディ・デンチは王冠の宝石。殊に、カトリーナは主演女優賞にも値する貫禄があった。
映画を見て帰宅して、すぐに公式サイトを開いてジュディ・デンチのインタヴューを見た。このジュディの証言で、私は再び感動して泣いた。ラストショットのガラスごしの「おばあちゃんの祈り」も思い出した。
すっかり視力が弱くなったジュディのために、ケネスは、脚本を最初から最後まで自ら読んで聞かせたと言うのだ。そして、一度だけ、当時を思い出して、言葉につまった、とも。
女優と、脚本を書ける監督との最高の時間を、ジュディ・デンチとケネス・ブラナーは共有した。私は少しだけ、樹木さんのことを思った。
■ 「ベルファスト」を見るまでは、「ドリームプラン」が私に取っては最高のアンサンブル演技賞だった。ウィル・スミスが見事なのは勿論、妻役のアーンジャヌー・エリスの肝っ玉かあさんぶりに感激した。セリーナとヴィーナス役のデミとサニヤも上手かった。コーチ役の二人、ジョン・バーンサルとトニー・ゴールドウィンも、キャリアで最高の演技を残していた。トニーとは「ラスト・サムライ」の悪役コンビだっただけに、コーチとしてのキレのある動き、いつまでも若々しい声音と表情が嬉しかった。
ザック・ベイリンの脚本が秀逸だったし、レイナルド・マーカス・グリーンの、的確な演技を引き出す距離感の演出、演技に全てを捧げた映像作りに唸った。監督協会のノミネーションを逃したとはいえ、とても才能がある監督だと思う。
残念だったのは、アカデミー賞の夜の醜態だ。配慮に欠けたジョークだったにしても、ウィル・スミスは大人の対応をすべきだった。クリス・ロックにツカツカと歩み寄った時、私は楽しいハプニングを仕掛けるのだと思った。ビンタを食わせた後も、ジャック・パランスが突然やった腕立て伏せのような楽しいハプニングに仕上げるものとばかり思っていた。
それが、そうはならないとわかったのは、席にもどってなお、ダーティワードを使ってクリスを脅した姿を見た時だ。さらにいえば、スミスは退出を求められて拒絶し、受賞の時を待った。受賞後の義務である記者会見と、受賞俳優四人の記念写真をすっぽかした事実もある。アカデミー協会の裁定は妥当だと思う。
もう一つ、私が気になったのは、あの6分近い長い懺悔にも似たスピーチで、ウィリアムス姉妹とアーンジャヌー以下の共演者に対する感謝、あるいは謝罪の言葉は記憶にあるが、素晴らしい作品にまとめ上げた監督や、オリジナルでこれだけ優れた家族のドラマを書き上げた脚本家への言及が記憶にない。私が聞き逃しただけだろうか。なかったような気がする。KING RICHARDのスミスが、貧民区のリア王を存分に演じきっていただけに残念でならない。
やはり長くなってしまった。「ナイトメア・アリー」のことも語りたいし、「コーダ」がなぜ5番目で「ウェストサイド」の何が足を引っ張ったのかも指摘したい。みんなまとめて、次回ですね。
|